「無理も何も、お嬢さんははっきり私を撃ったはずなのだが。殺さないでいただきたいという願いをあっさり却下したはずなのだが」


「そういう意味ではありません。“無理”というのは、“あなたを殺すのは無理”という意味です」


……ややこしい!

誰がこんな場面でそんなとんちに気付くのだ!

死んでいたら私のこの興奮はどう処理すれば良いのだ!


「ひとつ、聞いてもいいだろうか?」


「何でしょう?」


「お嬢さん、お名前は?」


「……“グレーマスク”とでも呼んでください」


やはりそうか。

“名前を聞くならばこの場面”。

私の読みは間違っていなかったようだ。

冷静に考えれば、女は私のコードネームを知っていた。

そう、つまり私はすでに名乗り終えたようなもので、これ以上名乗る必要などないのだ。


「……って、なぜ私のコードネームを知っている!」


「今さらですか! それをつっこむなら、最初にしてください!」