「…諒子?

何かあったか?」



なんだか要の声を聞くのも久しぶりに思えて
その落ち着いた低い声が諒子の涙を誘う。


涙を拭いて何でもない振りをしようとしたのに…


次から次へと溢れ出てくる涙に
諒子の手が止まる。



心配そうな表情を浮かべながら近づいてくる要に気付いて
諒子がリビングから出ようと背中を向けた時…



要に…



腕を掴まれた。



要の腕の強さに…

諒子の体がビクンとすくむ。




「…諒子。

はっきり言えよ。


オレに腹立ててんだろ?」


思いもよらない要の言葉に
諒子が振り向こうとして…

でもまぶたを熱くする涙を思い出し
要に背中を向けたまま口を開く。



「…怒ってないよ」


諒子が返事をすると

要の小さなため息が聞こえてきた。



「嘘だろ。


オレが…

父さん達に怒鳴った事怒ってるんだろ?


…おまえが大事に守ってきた家族を気まずくしたから」



「……」



ここ数日間、

確かに要と顔を合わせないように
話さないようにしていた。


1回…

無視もした。


それは、諒子が要への想いを消そうとしていたからで
それ以外に何の意味もなかったことだったが…


自分のとった行動を思い返すと
要がそう思うのも無理はなかった。



「…違うよ」





「諒子…


はっきり言えよ。



家族だろ?」







『家族』




要の口からその言葉が出た瞬間…



胸にしまいこんできた感情が


溢れ出たのが分かった。





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