「え…

あ、そうなんだ…」


母親から電話があったのは
諒子が夕飯を作り終えた後だった。


その電話の内容に…


諒子の表情が落ち込んでいく。


ちらっと既にテーブルに並べた夕食に目を向けて…

その視線をゆっくりと落とす。



諒子がケータイを耳から離すと
ダイニングのテーブルに座っていた要が声をかけた。





「母さん?

何だって?」




要の言葉に諒子が少し黙って…

すぐに笑顔を向けた。



「なんか、今日は仕事で帰れなくなったって…

お父さんも…」



何でもないふりをしようとしたのに
声が途切れてしまって、

諒子が慌てて言葉を繋げる。



「仕方ないよねっ

仕事だもん。


待ってる必要なくなったし食べよっか」


笑顔を作ったまま

諒子が要の向かいの椅子に座って…



テーブルが見えないくらいに敷き詰められた夕飯に苦笑いした。




「ってゆうか、ごめんね。

みんなの好きなもの作ったらめちゃくちゃなメニューになっちゃって…」



父親の好きな煮物に

母親の好きなグラタン。


そして

要の好きなしょうが焼きにサラダ…



テーブルの上の組み合わせの悪いメニューが
諒子の浮かれ具合を表していた。



黙っていると落ち込んできそうな気分に
要に話し掛けようとして…


でも、さっきから自分ばかりが話している気がして…


一度開けた口を閉じた。





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