「おまえ無理してない?」
要の言葉に諒子が顔を歪める。
「…無理って?」
ドキッとしながらも首を傾げた諒子に
要が続ける。
広めのリビングに大きな掛け時計の秒針の音だけが響く。
テレビは今日も真っ黒な画面を映していた。
「家事。
ほとんど諒子がやってるだろ?
おまえ学校だってあるんだから少しは手抜かないと疲れるだろ」
要が言った言葉に…
諒子が苦笑いを漏らした。
看護士の仕事は想像通り忙しいらしく
母親は毎日疲れた顔をして帰ってくる。
それでも諒子や要には笑顔を作っていたが
それが余計に申し訳なくて…
母親と諒子で半分づつこなしていた家事も
いつの間にか、諒子が全てやるようになっていた。
疲れた母親にさせるのが嫌で
母親が帰ってくる前に全て片付けるようになっていた。
「だけど…
お母さんは仕事あるし…
あたしが家事やって家族が上手くいくならそれでいいよ」
確かに疲れるときもある。
みんなが遊んでる中、なんで自分ばっかり。
そう思う事だってある。
だけど…
「ずっとお母さんと2人だったからね、
初めてなんだ、
こんなに家族がいることが幸せに思えたの。
すごく楽しくて…
ずっと続けばいいなって思う。
だから、家事くらい大丈夫だよ」
何よりも壊したくないものが『家族』だったから。
だから頑張れた。
幸せそうに笑う諒子に要がふっと困ったように笑って…
「…諒子はいい子だな。
ただ、オレもいるんだから少しは手伝わせろよな」
そう言ってまたカレーを食べ始めた。
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