「な…に?」
要に触れられた事なんかほとんどない諒子が
動揺しながら口を開く。
要は諒子の手首のあたりを掴んだままその指先を見つめて…
そしてメガネの奥の視線を諒子に向けた。
「…切ったのか?」
その視線に諒子の胸が暴れだして…
思わず要から目を逸らした。
「うん…でもっこんなの全然大丈夫だし」
要の手から逃れようと少し力を入れた諒子に要が小さくため息をついて…
「こっち」
そう言って諒子の腕を掴んだまま歩き出した。
「父さん、救急箱借りるよ」
「あぁ、諒子ちゃん切ったのか?
父さんがやろうか」
「いいよ。浅いから」
父親と会話を交わしている間も
要の手は諒子の腕を掴んでいて…
初めて掴まれた腕が熱を帯びていくのがわかった。
ひょろひょろで運動なんか何もできなそうなのに
意外と強い力に戸惑って…
でもその力に「男」を感じてしまって…
諒子が少し赤く染めた顔を俯かせながら要に引かれるまま足を進めた。
要が諒子を連れてきたのは父親と母親の寝室だった。
両親とも医療機関に勤めているだけあって
普通の家庭よりも大きめの救急箱が棚の中にしまってある。
「座ってて」
部屋に入ってようやく諒子の腕を離した要がベッドに座るように促した。
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