豚汁が食べたいという父親のリクエストに答えて
油揚げやねぎ、こんにゃくを切っていく。


そのところどころで

諒子の手が止まっていた。





なんでなんだかわからない。



ただ…



ただ、



気になって仕方なかった。


2階にいる要の事が。



あの無愛想な要に笑いかけられる女が誰なのか。


あの無関心な要の興味を全部持っていく女が誰なのか…





『めちゃくちゃ大事にする』

そんな言葉をもらう女が誰なのか…





自分がなんでこんな気持ちになるのかわからなくて…


要の事でなんでこんなにもやもやしなくちゃならないのか腹が立って…




諒子がサトイモを乱暴に包丁を入れた瞬間…



「…―――いたっ…」



まな板の上でサトイモが滑って
サトイモの代わりに包丁が諒子の指を切っていた。



「諒子ちゃん?」


小さく声を出した諒子に父親が不思議そうに声をかけた。


「あ、なんでもない」


なんとなく遠慮して笑顔を作った諒子だったが
中指の指先からは赤い血が止まらず流れていた。





…あんなに力入れて切ったからだ。


罰…




ふぅ、とため息をついてから
諒子が水で傷口の血を流していると

階段を下りてくる音が聞こえた。



要だということが分かり、
なんとなく諒子が体を強張らせる。




リビングに入ってきた要はそのままキッチンにきて…

冷蔵庫を開ける。



要のいる背中側に全神経を向けながらも
諒子が水を止めて手を拭こうとした時…




その手をぐいっと力強くつかまれた。




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