「ねぇ、要くんって今まで彼女とか連れてきたことある?」


父親の仕事が休みの日、
諒子が要がいなくなった時を見計らって聞いた。


「ん?要?

…いや、ないなぁ」


父親の言葉に諒子ががっくりと頭を落とす。


そんな諒子に父親が困ったように笑って…


「要はあまり自分の事を話さないからね。

でもあいつはあの歳にすればおかしいくらいに固いからね。

恋愛なんか特にそうだな。


オレに紹介する時なんて結婚する覚悟だろうな(笑)」



「……」



「諒子ちゃん?」



黙り込んだ諒子に父親が不思議そうに呼びかける。


その声にはっとして諒子が笑顔を作った。


「あ…ごめんごめん(笑)

さて、ご飯でも作ろうかな」


「手伝おうか。

いつも諒子ちゃんに任せてばかりで申し訳ないし」


腕まくりをしながら立ち上がった父親に諒子がプッと噴出した。


「いいよぉ(笑)

お父さんがいたら逆にやりづらい(笑)

たまにの休みくらいゆっくりしてなよ」


諒子の言葉に残念そうに苦笑いを浮かべながら父親がソファに腰掛けた。




新しいキッチンは料理する意欲を掻き立ててくれる。

数ヶ月前までのアパートの狭いキッチンとは違う。


キレイな大きな使いやすいキッチン。


なのに…


まな板ににんじんを乗せながら…

諒子の手が止まる。



『結婚』


その言葉に…

敏感に反応していた。





要くんが結婚…


ってゆうか、それが普通だし。


結婚もしないでいつまでも独り身だったらおかしいし。


それに今すぐじゃないし…


いつか…


『めちゃくちゃ大事にする』


そう思える人ができたらお父さんに紹介して…


『結婚』


うん…


それが普通…







『普通』なんだよ。



諒子が、うんうんと頷きながら
にんじんを切り始める。



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