「おかえり」
諒子が買い物袋を持ってリビングに入ると
いつもの定位置のソファに要の姿があった。
この前の事があったせいで
なんだか変に意識してしまう気持ちを
押さえながら諒子がわざと憎まれ口をたたく。
「要くん、いつもあたしより先に帰ってるよね。
たまには遊んでくればいいのに…
遊ぶ友達いないの?」
諒子の言葉に要がレポート用紙に目を向けたまま口を開く。
「…諒子1人じゃ危ないし。
両親があてになんねぇから
オレがいてやんねぇと何かあった時嫌だから」
表情1つ変えずにクールな態度で答える要に
諒子が顔を少し赤らめる。
『兄妹』なんだから
要が表情を変えないのは当たり前で…
おかしいのは顔を赤くして焦った自分…
わかってるのに、なんだか無性に頭にきて
諒子が買ってきた食材を冷蔵庫に乱暴に詰め込んだ。
冷蔵庫の冷気があたっても顔の熱が取れなくて…
諒子が目をギュッとつぶって頭を振る。
そして、要が自分の部屋に戻って
やっと冷静を取り戻した時…
ふと思った。
考えてみれば
あんな言葉をかけられた事は一度もなかった。
今までできた彼氏は
母親が帰ってこないのをいい事に家に上がり込んで
用事を済ませば帰っていく。
帰り際、諒子の心配をした彼氏はいなかった。
やっぱり…
自分の今まで関わってきた男達と要は全然違うんだと
改めて思い知らされた。
もしも…
もしも次付き合うなら…
要くんみたいなタイプの人がいい。
あたしを真剣に想ってくれる人。
あたしも真剣に好きになるから…
『めちゃくちゃ大事にする』
そんな、ちゃんとした恋愛をしたい。
要のいたソファを見ながらそんな事を思った。
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