「…何、やってんの。」

手を置いた人物は、六組の代表花森瑠璃だった。

周りをチラッと見て、誰もいないのを確認した花森はニコッと笑って
「先生の手が、冷たそうだったから。」
と言った。

意味がわからない。

だからって手を握るか、普通?

「…どうでもいいよ。早く離しなよって言ってるんだけど。」

花森は、俺の言った言葉など耳に入っていないかの様に手を握り続けたまま、話出した。

「手を繋ぐのはダメなのに、抱きしめるのは良いんですか?」

「…何の事。」

花森は可愛い顔を意地悪く歪ませながら、
「私、見たんですよ。先生と羅々ちゃんが一次審査が終わった後、控え室で抱き合ってるの。」

「…それは、羅々が転んだから、「ウソですよね。」



「何でウソだって言い切れるの」

「先生の表情が、切なげだったから。」

「…」

「抱きしめ返したいのに、出来ないって顔してたから。」

「…それが、何」

“先生”

微笑む君を抱きしめ返す事さえ出来ない。

君への想いも、言葉になんて、出せやしない。

思わず眉間に力を込めると。

花森は相変わらず楽しそうな顔で
「否定しないんですね。」
と言った。

「…」

「…羅々ちゃんの事、好きなんですか?」

ー…

俺は
また
ウソを尽くしかないんだ。

「…そんなわけ、ないでしょ」