羅々が出ていって静かになった教室で一人、ため息を吐いて下を向きながら、こめかみを抑えていると。

ガラッ

控えめに教室のドアが空く音がした。



こんな時間に来る生徒はもちろん羅々しかいないはずなので、そのままの姿勢で、
「羅々?」
と呼んだ。

「そんな風に、名前を呼ぶくせに。」



ゆっくりと眉間に力をいれながら、声を発した人物を見る。

「あんなひどい事言うんだな。」

俺が睨むのと同じくらいの睨みを効かせながら俺を見る。

「盗み聞き?…行儀が悪いよ」

そいつはハッと笑ってから
「あんな大声で話してた癖に何言ってんだよ」

「…そんな大声で話してたつもりなんてないけど。」

「…っ。
…そんな余裕ぶっこいてると、どうなっても知らないからな。」

…余裕ぶっこいてる?

何を言ってるんだ。

今まで

俺は

一度も

余裕だった事なんて、無い。

「…どうなるって言うの」

「は?」

優希はピクッと眉をあげて。

「余裕ぶっこいてたら、どうなるって?」

「…痛い目見ますよ、っていってんですよ」

優希はそれだけ言うと荒々しくドアを閉めて出ていった。