家の前に戻ったとき、玄関の戸が横倒しに置かれているのを見て、ぼくは敷居の掃除の途中だったことを思い出した。

「や、いけない。居間のほうまで寒かったろうな」

風が吹き込む廊下を小走りに、居間の戸を開けた。

そこでは、さっきまでぼくが座っていた場所に母が座り、母に寄り添うようにきみが座っていた。

ふたりは、目を赤く腫らしていた。



「見せてちょうだい」

ぼくの姿をみとめた母が、ぼくに手を差し出した。

ぼくは黙って、戦死公報を母に渡した。

「そちらの令状も、見せてちょうだい」

母は声を震わせながら、しっかりとぼくを見ていた。

母の目は、騙せなかった。

それもそのはず、だって母は一度、兄の招集令状をその目で見ているのだから、当然のことだった。