「引き止めてしまい、申し訳ありません」

ぼくはそれだけ言って、永山さんに背を向けた。

去ろうとしたそのとき、

「あの」

永山さんに呼び止められて、ぼくは足を止め振り向いた。

「実は今日、ぼくにも届いたんです。召集令状」

驚いて目を丸くしたぼくに、永山さんは続けた。

「お国のために、がんばりましょうよ」

そう言った永山さんの表情はなぜか朗らかで、ぼくにはそれが恐怖にさえ感じられた。

「おめでとう、ございます」

ぼくは力なくそう告げ、路地を出た。



兄の戦死公報と、ぼくの招集令状を握りしめて。