狭い路地に、ぼくの荒立った呼吸音だけが聞こえていた。

やがて永山さんが、ゆっくり目を開けて言った。

「夏の戦死者の公報が今届くというのは、決して遅いほうではないと思います」

先程までどちらかと言えば弱気だった永山さんの目は力強く、妙な迫力を感じるほどだった。

「徴兵後の消息がわからない人は、数え切れないほどいるんです。そういう方々が、現在、この世界のどこにいるのかなんて、いち役人がわかることではないんですよ。こうして公報が来るだけでもよしとしたほうがいい。事を荒立てないほうが、ご家族のためです」

そこまでひと息に言って、永山さんは呼吸を整えた。



永山さんが言ったことは、何もかも正論だった。

何よりもぼく自身、この町の役場に何の罪もないことは、言われなくともわかっていた。

永山さんは、与えられた仕事をしているだけだということも。

だけどぼくは、この手に握ったふたつの通知に対する思いをぶつけたいがため、永山さんに食って掛かった。

感情の赴くまま、罪のない人を責める、大馬鹿者だった。

行き場のない怒りが、ぼくを無性に悲しくさせた。