「どうして今なんですか」
「ぼくに言われても困ります。国が決めたことですから」
「だったら、これは」
ぼくは、戦死公報を永山さんの目の前にかざして見せた。
「これは、ぼくの兄の戦死通知ですよね」
永山さんは何も言わなかった。
「ぼくらは先日、親切な方に知らされて、もう兄が死んでいることを知っていました。聞くところによると、それは夏のことだったそうです」
体に力が入りすぎて、手が震えていた。
永山さんは、震える戦死公報をじっと見ていた。
「夏ですよ。それまで国は、役場は、遺族をほったらかして何をしていたんですか。年も明けようという今になって、こんなものと一緒に届けるなんて、一体どういうつもりなんだ!」
声を荒げるぼくの反対側の手には、『こんなもの』が握られていた。
永山さんは視線を落とし、静かに目を閉じた。