「うん、鷹雅くんもぜんぜんだいじょーぶだって。でも、あのね……」

花音は両手を口に添え、何やら少年に耳打ちしている。

そのうち少年の顔が何かを哀れむように歪んだ。

直接話したことは無いが、彼のことはちらりと見かけたことがある。

コロコロ笑ってジェノサイド生徒会長率いる生徒会役員たちに盾つく、天神学園一の犯罪集団『龍太郎一味』の筆頭、丹下龍太郎の舎弟だ。

人外さえも怯えさせる生徒会長に盾つくとはどんな馬鹿だろうと、密かに興味があったので気にかけていたのだが……。

こうして間近で見てみると、拓斗はとてもそんな凶悪な集団の一味とは思えない、ひ弱そうな少年だった。

もしかして、何か弱みでも握られてパシリにされているのではなかろうか？

……なんて思っていると、そのひ弱そうな舎弟拓斗が、鷹雅が目を開けていることに気づいた。

「あ……大丈夫？　ええと……鴉丸鷹雅くん？」

鷹雅の傍に歩み寄る拓斗に、五所川原の影に隠れながら花音もやってくる。

「鷹雅くんは花音ちゃんのお兄ちゃんの乗る車の前に飛び出してきて、事故にあったんだぴょん。痛いところはないぴょん？」

五所川原の腕をぴょこぴょこ動かし、最後に首を傾げる。五所川原の長い耳が、横にゆらりと揺れた。