「……誰にやられたの」

花音から五所川原を取り上げ、その細い手首を掴んで問い詰める。

いつもよりずっと低い声に、花音はびくりと肩を揺らした。

「た、拓ちゃ……?」

「誰にやられたの?」

決して乱暴な口調ではないし、掴まれた手首も、ただ包まれているだけの弱いものだ。

なのに、怖い。

ふわりとした優しい目が、鋭利な刃物のように鋭く花音に突き刺さる。

「……か、家庭科、室、の……」

見たことのない兄に、カタカタと震えながら答える。

「家庭科室にいたんだね。……雪菜ちゃんも、やられたの?」

ちらりと視線を寄越されて、雪菜も戸惑い気味に頷いた。

その後、雪菜は拓斗が間違った解釈をしてしまったのだと気づいた。

「あっ、拓斗君、でも、あのっ……」

説明しようとすると、拓斗は花音に五所川原を返し、そっと頭を撫でた。

「2人ともここで待っててね。……東城」

拓斗が呼ぶと、廊下の暗がりから、黒いスーツを着たウルフカットの青年がすっと現れた。

「はい、拓斗様」

「2人の傍にいてあげて」

「畏まりました」

主人の命令に頭を下げる東城は頬が緩みきっている。命令されることが至上の喜びである東城、隠れ微マゾヒスト。