「さあ、今日は春の旬、和歌山県那智勝浦産マグロを狙うよ!」

「はい、和音様!」

バイオリンを肩に担ぎ、勢い良く市場に突っ込んでいく和音。そしてそれを追う西坂。

賑やかな声を掻き分けて進んでいくと、後ろから声をかけられた。

「ぬっ、また来やがったのかバイオリン小僧!」

振り返ると、ツルテカ頭に白いタオルを巻きつけた青年が、和音を威嚇するように睨み付けていた。

「やあ師匠! 今日も一番粋のいいもの仕入れさせてもらうよ!」

「そうは問屋がおろすか、てやんでぇバァローめ!」

ツルテカ頭の彼は和音に競りへの参加の仕方を教えてくれた師匠なのであるが、最近は良きライバルとなっている。

本職の卸問屋と高校生が何を張り合っているのだろうか。

「つか、てめぇ、何いつもスカした顔してバイオリン弾きながらセリに参加してんだよ!」

「ふふ、バイオリンを弾いているときの僕が一番力強く輝いているからさっ!」

「神聖な漁師と魚職人たちの戦場を馬鹿にしてんのか! お坊ちゃまが遊び半分で参加してんじゃねぇよ!」

最もな意見の師匠に、和音はふっと笑みを消した。