「……哀しい夢でも、見ていましたか」

長めの前髪から覗く、無機質で何の感情もないように見える小岩井の瞳。

しかし雪菜には解る。

そこには確かに、自分を心配する優しい光が宿っているのだと。

「いいえ」

雪菜は微笑みながら首を振った。

「たぶん……あたたかい夢でした。父に……逢っていたのだと思います」

胸に両手を当て目を閉じる。それだけでなんだか温かな気持ちになれた。

顔も声も、もう覚えていない。

零れ落ちていったものは、どんなに手を伸ばしても取り戻すことは出来ない。

けれど確かに残るあたたかな気持ちは、いつまでもいつまでも、この胸に残って雪菜を包み込んでいてくれる。

「……そうですか」

静かに頷く小岩井は、ゆっくりと背を向けようとする。

それに向かって、雪菜は言った。

「小岩井さん。私の母にお逢いになりました?」

「……」

小岩井は何も反応しない。背を向けたまま、僅かに動きを止めただけ。