零れ落ちるものを留めることは叶わず。

それでも失くしたくないと、大切なものに手を伸ばす。

そうやって必死にかき集めて残ったのは、『太陽のような笑顔』という言葉の記憶と、あの日繋いだ、手のぬくもりだけ……。





「……雪菜さん?」

遠慮がちにかけられた低い声に、雪菜は薄く目を開ける。

そこはぼんやりとした明かりの浮かぶ闇の中ではなかった。

小鳥たちの囀りが遠くから聞こえてくる、まばゆい光に包まれた宿直室だ。

「……小岩井さん?」

そっと頭を持ち上げると、肩にかかっていた毛布がするりと畳の上に落ちた。ああ、また卓袱台に突っ伏して寝てしまったのだと、ぼんやりした頭で理解した。

「おはようございます……」

挨拶をしながらごしごしと目を擦ると、冷たいものが手の甲を掠めていった。

ころころと転がる、涙の粒。

「……あれ?」

冷たい頬の感触に、雪菜は首を傾げる。