「…で?何が大変だったって?」



「黒崎様よ!」



「おい…!声がでかい!」



彼はしのぶの腕を掴んで自分の隣に座らせ、シィーと長い人差し指を突き立てた。



「…ただ空き部屋を案内しただけだろ?」



「ええ、そうよ。このホテルの空き部屋全部ですけど!」



「……あぁ…そう…」



しのぶが怒るのも無理ない。



田所が「悪かった」と素直に謝るものだから、彼女はそれ以上文句が言えなくなった。



「…あの人…何者!?」



「さぁ…でもカタギには見えなくないか?」



「…まさか…ヤクザなんて言わないわよね?」



「イギリス暮らしらしいし…マフィアか…最悪、テロリストかも…」



しのぶの冗談に田所が真顔で答えたので、彼女はぷっと噴き出した。