テリーの歌声には不思議な魔力があるように思えた。



これほどまでに人を魅了し惹き付ける。



会場にいる観客は既に“vale”のステージに釘付けだった。



だが潤にはその理由が次第に解ってきた。



…人々を魅了しているのは彼の歌声だけではない。



惹き付けているのはマルバスであるアダムの奏でるギターの音色だ。



それはまるで媚薬のようだった。



そんな“vale”のステージは、忍曰く「今日は大人しめの曲ばかり」だそうだ。



ホテルのセレモニーでバリバリのロックを披露するわけにもいかないのだろう。



なんにせよ、身重の忍が興奮して跳び跳ねたりする事態にならなかった事に潤は安堵していた。