忍が“vale”に夢中になってる間、右京は暇を持て余して欠伸を噛み殺す。



そんな時だった。



右京は微かな気配に振り返る。



忍の傍に居た潤もそれに気付いたらしく、右京に視線を向けた。



…ワタクシがついてます。



彼の藍色の瞳がそう言って小さく頷くのを見て右京は一人気配を追った。



フロントに数名のホテルマンが居るだけでロビーは静寂に包まれている。



だが確かに感じた気配に右京はゆっくり辺りを見回しながら歩く。



「…誰を探して居るのかしら?」



真後ろから聞こえた声に振り返ると、さっきまでは誰も居なかった場所に褐色の肌をした女が佇んでいた。



「…アスタロト…!」



彼女は妖艶に微笑むと、コツコツと足音を響かせ右京の方へ一歩、また一歩と近付く。