「誰?」



かすれた低い声が放たれた。


それが、
私に向けられているんだと気付くまでに少し時間がかかった。


「え?」


本当に久し振りに出した声が、

引き攣れてかさついた。



「いつからそこにいた?」



彼は、
今度こそしっかりと私を見てそう言った。


私は何と言えばいいかわからずに黙っていた。


わからないなら、

黙っていたほうが懸命だ。


「喋れないのか?」


彼はそう言った。


目は真っ赤だけれど、
もう泣いてはいなかった。


私はゆっくりと首をふった。


「ここで何してる?」


彼は重ねるようにそう聞いた。


そう幾つも質問されると、何処から答えていいか迷う。


私はあまりに使われなくて、
ガタのきている喉を咳ばらいで励ましすと、
ゆっくりと答えた。