そうだ。


何もかも忘れてしまっている私は、

自分が死んだ事すらリアルに感じられてはいない。


ただぼんやりと、
この場所に留まるだけだ。



ゆっくりと空が紫に移り行くのを、

星の無い暗黒を、

此処で見つめているだけ。
そして、
次の朝が来ても

此処に居るのだ。




アヤメは何故死んだんだろう。



この様子だと、
身近な人に最期を看取られてはいないらしい。


健次くん。


そう呼ばれた人物は、

私の何だろうか。


健次という名を聞くと、
胸がキュと締め付けられる気がする。




「アナタ、まだ此処にいたんだ。」




不意にかけられた声に、

顔を上げる。



口の端だけ持ち上げて、

今日の彼は笑っていた。



「アナタも、今日も此処に来たのね。」


そう答えると、
彼は隣のブランコにドサリと座った。


彼はネクタイを少し緩めて、
私を見た。


「思い出せよ。」


言われて、
肩がビクッとしたのがわかった。



思い出せ。


思い出せ。


思い出さなきゃ。