気付いたら、
私は誰かの部屋にいた。
覚えていないから、
誰の家なのかはわからない。
部屋には眩しすぎる日差しが差し込んでいて、
フローリングの床の傷がやたらと目立っていた。
2DKの部屋には誰もいない。
敷きっぱなしの布団と、
床に散らばった服。
開けっ放しのクローゼットの中には、
スーツと一緒に女物のコートがかかっていた。
此処は、
どこなんだろう。
私の家。
不意に浮かんで来た言葉に、
私は部屋を見回した。
テレビの上に、
写真立てが飾られていた。
仲良く寄り添うカップル。
顔が、
太陽の光の反射でよく見えない。
手に取ろうと近付いたところで、
ガツンと壁に当たった。
まただ。
目に見えない透明な壁。
そろりと手を伸ばして確認すると、
ほとんど身動きが出来ないくらい取り囲まれている。
不意に電話が鳴った。
音のしたほうを振り返る。
コールは2回3回と鳴り続け、
ブツっと音が止まった後に留守番電話のアナウンスが流れ始めた。
『ケンジ君。アヤメの捜索願い、やっぱり今日出してきました。帰ったら、連絡くださいね。』
女の人の声だった。
懐かしい感じがして、
私は動けなくなった。
私は知っている。
この声の主を、知っているんだ。
そこでまた、
目の前が暗くなった。