「さあ、ここだよ」

一軒の家の前で立ち止まる。

ライナルトはティアナを待たせて家の脇にある厩に行くと、愛馬をそこに戻した。

「お待たせ!入って」

彼は入り口の扉を開け、ティアナに先に通るよう促す。

「どうぞ…」

彼女は面食らった。

(アンドラスはこんなことしてくれなかった…!)

レディーファーストなんてアンドラスの辞書にはない。

ティアナはライナルトが紳士に見えて仕方なかった。





 さて、家の中は一般民家と変わらず質素なものだった。

造りはティアナが両親と住んでいた頃の家に似ている。

そのためか、懐かしさを感じるティアナ。

「狭いかな?」

ライナルトは鎧を外しながら苦笑いをした。

「ううん。私もこういう家に住んでたの。何だか、懐かしくて…」

家の中を見回しながら、彼女は疑問に思ったことを口にした。

「ご家族は…?」

「祖父が一人。父は昔戦死して、母は数年前に病気で…。今は俺と祖父の二人で慎ましく暮らしてる」