涼しい風が頬を撫でる。

火照り気味だったライナルトには気持ち良く感じられた。

彼が顔を熱くさせている理由は偏に、隣で喋る「天使」のせいだ。

「でね、アンドラスは私の描いた絵をいっつも…」

楽しそうに話す少女。

内容など半分くらいしか耳に入らなかった。

ただ、彼女の笑顔に見惚れて瞳を潤ませる。

「ひどいでしょ?初めの頃なんて、林檎を描いたら血だまりかって言ってきたの」

苦笑するティアナ。

「まあ、そんなアンドラスだけど…私は大好き」

少し顔を赤らめる。


彼女は悪魔に両親を殺された。

そして同じ悪魔に育てられ、今を生きている。

彼女が語った身の上話。

この話をライナルトは冗談とは思わず、真面目に受け入れた。

「君はいつまで悪魔と共に生きるんだ?」

「え…!?」

ティアナの表情が曇った。

「君がその悪魔アンドラスを好いているのはわかった。でも、いつまでも側にはいられないよ」

黙り込む彼女にライナルトは言った。

「君は人間だ、ティアナ。今ならまだ間に合う。俺と共に、この町を出よう?」