「もしかして…この町って、昔は正教会だったのか…?」

隠されるようにして小部屋に飾られたイエスの聖画像。

今は祭壇にプロテスタントの十字架が掲げられているが、ユグノーが台頭する以前はイコンを礼拝する正教会であったのだろう。

町がプロテスタント派に支配されて教会も信仰の形を変えたのだ。

「全く…神の存在なんて、人間の争いを引き起こす格好の種だよね」

イエスの顔を眺めながら溜息をつく。

「そう考えると、神だって僕ら悪魔とそう違わないのかもしれないね…」

彼は天使であった時の自分を思い出した。

破壊も自然調和には必要だと言われ、命じられるがままに壊してきた。

神の怒りに触れた人間を殺したこともあった。

神の命令を速やかに実行するのが当たり前。

けれど、ある時疑問に思ってしまった。




――僕に命令する貴様は何だ…?





善なのか。


悪なのか。


「人間は神が善で、堕とされた存在は悪だって信じてる」

しかし、本当なのだろうか。

(僕に言わせれば、神が全て正しいなんて嘘っぱちにしか聞こえないね)

創造主にとっての善が、全ての者を幸福に導くとは限らない。

アンドラスはイエスの青白い顔を見つめ、呟いた。

「君も犠牲者だよね。救い主なのに、幸せとは程遠い人生…。けどそれが、神が求めた君の価値」

どこか疲れたように見えるイエスの表情。

それを暖かい太陽の光がひっそりと照らした。