高瀬菖蒲。
昔は違和感もなかったが、最近、数年前くらいからこの名前がすごくしっくりこない。
何も『あやめ』をそのまま『菖蒲』って書かなくてもいいじゃない。
こんなに渋い漢字使わなくても、良かったんじゃないかな。
親に聞けば、菖蒲のように凛とした真っ直ぐな女の子になって欲しかったらしい。


その親も、二年前の夏の日に交通事故で亡くなった。
大好きな母だった。

いつもあたたかく笑っていた。少しヒステリーなところもあったけど、今となってはそんなところも懐かしい。


母が死んだと聞いた時、すぐに実感が沸かなかった。
急いで母のいる病院に駆け付けて、死んだ母と顔を合わせた。

頭に包帯を巻いて頬にガーゼを貼ってある母は、顔色が悪かった。
まるでドラマのような光景に呆然としながら、間違いなく死人の顔をしている母にそっと触れた。

死んだ人は冷たいという。
母は信じられないくらい冷たかった。


不思議と涙が出なかった。
ただただ、目の前にいる母がもう息をしていない、ということが信じられなかった。


通夜でも葬式でも涙が出ることはなく、隣で号泣している父を疎ましくさえ思った。