―ただ隣りに置いておくだけで、なんの役に立つんだか。

あやせの感覚と、文佳の考えは全く違う。

さやさやとさやぐ木の影。

春が終わり、夏の気配。梅雨には間がある、奇跡のように心地好い時期に、学内のちびた芝生に寝転ぶ。

傍らには、高遠。

ほんの少し手を伸ばせば、アイロンのかかっていない、くしゃくしゃのシャツの裾に触れられる。

触れはしなくても。

文佳の視線に気付けば、高遠は目尻にしわを寄せて笑ってくれる。

それで、充分。

文佳はただ、高遠に傍にいて欲しいだけ。

それ以上のことは希まない。むしろ――嫌悪する。

いまを壊す全ては、好いものでも悪いものでも欲しくない。

その希みの、なにが悪いのだろう。

「フミさん?」

「…こう、空を見ているとさ」

少しだけ、身を寄せて高遠が文佳の顔を覗き込む。
控え目な影が、広がったスカートの裾にかかる。

そこまで。

いつの間にか、高遠も心得たように一定の距離を文佳から取るようになっていた。
必要以上に近寄らない。触れない。
そういう紳士的なふるまいには好感が持てる。

恭しく、守られているみたいだ。

「見ていると?」

「…このまま、全部終わっちゃえ、って思わない?」