「フミさん、もう昼メシ食った?」

大きく肩で息をして、きらきらした目で高遠が訊いてくる。

「ごめん。もう食べた」

首が落ちる音が聞こえてもおかしくない。
からさまなガッカリ顔に、文佳は吹き出した。

「三限休講で、ひまなの。仕方ないわ。一緒してあげる」

ぱっと、俯いていた高遠の顔が持ち上がる。

高遠は文佳の思うまま。
神様にでもなった気分。

浮かれた気分を隠そうと、文佳はくるりとターンをした。

「あぶなッ!」

「ふわっ!」

浮ついた気持ちが身体に映り、足が絡まる。

ぐらりと世界が傾いだ。

「フミさん!」

高遠が手を延ばして、文佳の身体をすくい上げようとする。
大きな靴相応の、大きな手。
節が太く皮膚が厚い、グローブのように丈夫そうな手。

翳された手のひらが、文佳の頬に影を落とす。

深い深い、陰。

―その手が、文佳の暗い記憶を呼び起こした。

「いやッ!」

悲鳴じみた掠れ声。

条件反射。

これ以外の行動は選べずに、文佳は高遠の腕をはねのける。

ドサリ、と。

したたかに文佳は、くすんだタイルに尻餅をついた。