―面倒くさそうな子だな。

そう内心決め付けて、大樹はさっさと歩き出す。

「フミちゃーん!」

逆走してきた巻き髪の女の子と、すれ違った。
巻き髪の連れなのか、潔いショートカットの少女が、早足でそれに続く。

「待たせてごめん! フミちゃん、怒ってない?」

「怒ったほうが好いわよ。こいつ、雑誌コーナーでグズグズグズグズ…」

「そんなに云わなくても好いじゃない!」

巻き髪の子の、舌足らずな悲鳴。
どうやら、あの地味娘の友人らしい。

きゃんきゃん鳴く巻き髪と、クールなショートカット。

興味をひかれて、大樹は振り返る。

―すると。

さっきまで仏頂面だった彼女が、強張った顔をほどき、驚くほどあどけなく笑っていた。

それは痛々しいほどのかたくなさからの、鮮やかすぎる変化。

どくん、と大きく、大樹は耳元で、自分の心臓の音を聞いた。

「じゃあ今日は、穂波のおごりだね」

軽く、彼女は立ち上がる。

「フミちゃん、ひどおい」

「三十分、花粉症を外で待たせた罪は重いよ」

くすくす笑いながら、三人は大樹の脇をすり抜けて行く。

呼び止める間もなく、大樹は背中を見送った。

一瞬呆然として、次に猛烈に後悔した。

「声、かけときゃ好かった…」

舌打ちしても、もう遅い。

あの、劇的な変化。
あのギャップは、詐欺だ。

―大樹の、ツボすぎる。

「可愛かったな…」

あの笑顔を、自分にも向けてくれたら好いのに。

そう思いながら、高遠大樹は初日の語学教室に急いだ。