慎重に、高遠はベンチに腰を下ろす。
白い包帯でがちがちに固められた右足が痛々しい。

階段から落ちた文佳を庇った高遠の足は捻挫・全治三週間。擦りむけた見事な傷跡、多数。

対する文佳は、背中と足の痣だけ。一週間もすれば消えてしまう。

「調子はどう?」

「まあ、そこそこ。頑丈だからね」

高遠の答えは、屈託ない。

「ごめん」

文佳は深く、頭を下げる。
何度繰り返しても、足りない言葉だ。

「フミさんが悪いんじゃないよ。俺が勝手にやったんだから」

高遠は軽く、包帯巻きの右膝を叩いてみせる。

「フミさんが責任感じてくれるなら、ラッキーだ」

「ラッキーって、バカ。大バカ」

「フミさんが泣きそうな顔して心配してくれて、すっごいしあわせだよ」

心底ご機嫌そうに、高遠が云う。

「バカ」

ののしればののしるだけ、高遠は笑う。