扉が閉まる音で、呪縛がとけた。
緩んだ肩が、落ちる。
逆に意思の命令を受けて、両足が立ち上がろうとする。
「高遠!」
爪先が、無造作に置いたカップを蹴る。薄紅色したお茶がぱっと辺りに飛び散った。
「高遠、待って!」
構わず、走り出す。
いま、高遠をこのまま行かせたら、一生後悔する。
そんな予感があった。
この先幸福になったとしても、不幸になったとしても、なんども思い返しては苦みを噛む、そんな思い出になってしまう。
とにかく止めなくては、と気持ちばかりが走った。
幸運にも、非常階段を降りる背中を、文佳は見付けた。
「高遠!」
「フミさん?」
逆行の陰になって見えない、高遠の顔。
もどかしくて、文佳は階段を駆け降りようとした。
「フミさん! あぶな…!」
途端―がくん、と。
足許から、世界が、崩れ落ちた。
緩んだ肩が、落ちる。
逆に意思の命令を受けて、両足が立ち上がろうとする。
「高遠!」
爪先が、無造作に置いたカップを蹴る。薄紅色したお茶がぱっと辺りに飛び散った。
「高遠、待って!」
構わず、走り出す。
いま、高遠をこのまま行かせたら、一生後悔する。
そんな予感があった。
この先幸福になったとしても、不幸になったとしても、なんども思い返しては苦みを噛む、そんな思い出になってしまう。
とにかく止めなくては、と気持ちばかりが走った。
幸運にも、非常階段を降りる背中を、文佳は見付けた。
「高遠!」
「フミさん?」
逆行の陰になって見えない、高遠の顔。
もどかしくて、文佳は階段を駆け降りようとした。
「フミさん! あぶな…!」
途端―がくん、と。
足許から、世界が、崩れ落ちた。