「高遠…?」

泣き出しそうな、でも無理に笑おうとしているような、半端に溶けた高遠の表情。

文佳の、身体の奥が震えた。

いまどうすれば好いのか、本能で知っている気がする。
だけど、それを遮るものが、文佳の底にこごっていた。

ふたつはぶつかりあって、文佳の身体を凍らせる。

「フミカさん」

曇った顔をしているくせに、子供みたいに見返す高遠の目は、潤んでいない。

「俺のこと、好き?」

ふわりと葉が風に舞うような、言葉。
答えを期待しない、軽い響きをしていた。

「…」

簡単に答えられる問いなのに、文佳の唇は強張ったまま。

―バカ。

頭のなかで、自分への悪態がぐるぐる回る。

凍り付いた文佳へ、慰めるよう伸びたのは、優しい高遠の手。

びくん―と。

素直すぎるほど素直な、文佳の身体の反応。

触れる一息前に、高遠の動きが止まった。

高遠が、仕方なそうに笑う。

「好きだよ、フミさん」

勢いを付けて、高遠が立ち上がる。
そのままなにごともなかったように、伸びをひとつ。

「そろそろ行こうか」

嘘で傷をコーティングした、高遠の笑顔。

文佳は卑怯にも、痛々しい高遠の嘘に甘えた。