安藤広明は、重いスーパーの袋を持って山道を歩いていた。
“…っ!”
腹立たしげに道端の小石を蹴る。なぜこうも己の家は遠いのか。
それを承知で家を購入したのは自分なのに、イラつきは止められない。
数年前サラリーマンを辞め、画家に転職したものの一向に才能は開花しない。
今も車で一時間かけて街に足を運んだのは、とあるコンクールの結果を見に行ったのだ。
しかし、結果は以前として変わらず、街に出たついでにと食料などを買ったはいいものの、車では山に入れない。
もともと、広明は街中のボロアパートに住んでいたが、奇跡的に格安で売却されていた今の家を見つけた。
しかし、広明とて安いだけでは購入しなかっただろう。
理由は画の題材にあった。海を題材にしているのだが、ここは真っ正面が海になっているのだ。
必要最低限は揃ってはいるので、不自由は無いと言える。が、このご時世にコンビニが近くに無いのはかなり厳しいと思いしる。