9時28分 バスの中



「……まだ?」

「まだ」

「…………まだ?」

「まだだって言ってるだろ。一分ごとに聞くな」

「だってー……」

友也はつまらなそうに目を窓の外に向けた。



友也たちを乗せたバスは時々道路に空いた穴で車体を揺らしながら、延々と山を登っていた。

辺りは瑞々しい青に包まれた木々に覆われ、どれだけ進んでもほとんど景色は変わらない。



「綺麗な自然を見るのも楽しいよ?」

「木ー見てても何が楽しいんだよ」

友也は口を尖らせ携帯を開いた。

「圏外……」

あーー……とだらしない声を出して友也は目を瞑った。紫音は微笑みながら、修介は苦笑いをしながらそんな友也を見た。

「彩」

紫音が窓の外に目を向けたまま言った。

「何?」

「楽しい?」

彩は一瞬キョトンとした顔になった。