でも、もう遅いのかもしれない。


『麻薬』に一度でも手を染めたら、立ち直る方法は一つもない。ひとつも。

同じように、先輩を嫌いになる方法はないのかもしれない。

それならそれでいいか、と思わせてしまうのが、先輩のずるいところだと思う。



溺れるところまで、溺れてみようか。
梨花がいることも、気にせず。



…いや、
それをしてしまえば、私はとても大切なものを失うような気がする。


だめ。
だめだ。
なにがなんでも、先輩に溺れてはいけない。

必死に息を吸い込んで、手足を動かさなければ。

そのまま沈んでしまう―――……






電車のアナウンスが、耳の奥の方に響いた。

頭の端の方に、微かに香る先輩。




その姿をかき消そうとする

弱い体の力は


僅かに残された、淡い抵抗。