そうして、町は水害に飲み込まれることもなく、次第に力をつけていきます。


実質的町の最高権力者である、神崎。

人々からの信頼も厚く、町はほんとうに平穏でした。

やがて神崎という男はひとりの女に出会い、恋をしました。
黒い髪のうつくしいこと。

花を愛でる、心優しき椎名という姓の女性でした。


「やあ、おまえよ。私と夫婦(めおと)になろう」



互いに惹かれあったふたりは一緒になり、それはそれは幸せな夫婦になりました。


誰もが羨む、仲のよい夫婦でした。





丁度この頃、町には疫病やけが人が増えていきます。

神崎は言いました。



「あやかしものの仕業であろう。

しかし困った。私はあやかしものを斬ることはできるが、病までは斬れぬ」


肩を落とす当主に妻(さい)はこう語ります。


「でしたら私が、病を治してみせましょう。

きっと、直してごらんにいれます」


妻の言葉通り、町に跋扈する病はうそのように鳴りをひそめました。


「おまえ、一体どうして病を治したんだい?」


夫の呼びかけに妻は笑います。


「思いが神通力となったのでしょう。

私はすこし、生来より不思議な力があるようなのです」