すきっ腹にダイレクトに訴えかけてくるほかほかの白いご飯と、海苔の匂い。


逡巡する間もなく屈した私の胃袋にそそのかされて、私は大きなおにぎりを頬張った。



「生き返る…」

「よかった」


ふふっと笑った神崎くんも向かいに座って、食事を始めた。


あぁ、本当に何から何までお世話になっちゃってるな。
今度粗品を持ってお礼に来よう。

うん。そうしよう。






「順を追って説明するよ。

その前にまず、単刀直入に言おう。
麻上交宵(あさがみまよい)と平坂薫(ひらさかかかおる)は敵だ」


どかん、と。

備えてはいたけど神崎くんの口から直接聞かされる言葉の衝撃は大きかった。



「ええと……麻上さんって」

私の言わんとしていることをくみ取ったのか、すぐに彼は頷いた。


「あの占い師だ」

「…っ」

「椎名さんに渡したあの霊符を見て、すぐにわかったよ。あれは麻上家の者しか作れない代物だからね」


思い出してぞっとした。

邪鬼でもない、妖でもない形容しがたい存在。

取り憑く相手を探して彷徨う、まるで亡霊のようなものだった。


「呪術で作られた式神は、術で殺すことはできないんだ。物理的に壊すしかない。

だから正直、椎名さんにとって麻上は…とてつもない脅威だ」


「…っそんな、術が効かない……」


勝算ゼロって、宣告されているようなものじゃないか。

今まで術と霊符で妖や邪鬼を祓ってきた私だ。
剣も弓も扱ったことはない。



「…根本的にはね、麻上も術を嗜む家系なんだ。
そこは椎名と相違ない。

だけど、ある一点において違いがある。……わかる?」