「!」
そうか。壽二さんの…。
宝生家の先代当主である壽二さんは長いこと病を患っていて、それはあるとき受けてしまった妖の傷によるものだった。
じわりじわりと体を浸食し、命を削り取っていくその様はまるで呪いのような。
当然壽二さんは床に伏し、会合にも顔が出せるような状況でなくなった。
現状、会話はできるがほぼ寝たきりだと兄さんたちから聞かされていたけど─そうか、お医者様が手を打ってくれていたのか。
「ともかく、だ。迎えの車が来たら俺たちは月子を連れて宇城先生んトコに行くが、お前らはもう帰ったほうがいいんじゃねえ?」
「うん。もう夜も遅い」
千鶴兄さんの声に陸兄さんが頷いた。
時計を見ればもうかなり時間が経過していたことに気づかされる。
「だけど…」
このままのこのこ帰ったところで、俺の帰宅を待っているようなモノ好きは家にはいない。
なにより月子の容態が心配だ。…けれどあまり大人数でいても迷惑になるだけか。
考えあぐねていると千鶴兄さんの困ったような声が耳を打つ。
「宇城先生が来てくれりゃ心配いらねーって。心配してくれんのはありがたいが、真澄はほかにいっぱいやることあんだろ。
…そこの疑問符いっぱい頭にくっつけたおじょーさんの、お世話係とか」
「! え、わたし!?」
「他に誰がいんだよ」
狼狽する椎名さんを見て吹き出す千鶴兄さん。