「まー、別にいいけどよ…なぁんて言うか! お前も隅に置けねえなぁ真澄このやろっ」
「ちょっ千鶴兄さんッ」
「リア充爆発しやがれっ」
また始まった、千鶴兄さんの頭わしゃわしゃ攻撃…!
一度始まったらこっちの言葉なんて聞かないんだから、本当に兄さんは意地が悪い。
これで一応、宝生家の当主なんだから余計意味がわからない。
だめだこれは、と。されるがままでいると、苦笑いの椎名さんを陸兄さんが手招きした。
「?」
陸兄さん?
素直に応じた椎名さんに、兄さんは意外な行動に出た。
さすさすと、ごく軽い力で椎名さんのおでこを撫でたのだ。
「は…い?」
「あまり気を負いすぎないように…まじないです」
「おまじない…く、くすぐったいけどありがとうございます……?」
陸兄さんから花が飛んでる。あんな仏頂面だけど癒されてるのか。
くすくす笑った千鶴兄さんはようやく、俺を解放してどっかりソファに座り直した。
そのタイミングとほぼ同じで陸兄さんの携帯端末が震えた。
通話OKなここだが彼は席を立って、暫くすると戻って来た。
兄二人は顔を見合わせると頷きあって、瞬時に言いたいことを伝えたようなそんな顔をした。
さすがは双子。
「手配ができた。これから月子はウシロ先生の病院に移送される」
「ウシロ…?」
誰だ? そもそも移送、ってなぜ。
控え目な千鶴兄さんの声が耳に触れた。
「真澄は知らねえの? 宇城さんは一応、神崎の分家筋にあたるお医者さんだぜ。妖物に受けた怪我は普通の病院じゃ治せねえからな」
「いわば妖にまつわる怪我専門のお医者さん、ってこと。祓い人にとっては心強い味方だ」
陸兄さんが付け足した。
分家筋、って。
そんな人までいたの?
「まー、気難しいっちゃ気難しい人だからな。会合とかにもあんま顔出さないような人だし」
「そう…なんだ」
逆になんで兄さんたちは知ってるんだ?
疑問がわかりやすく顔に出ていたんだろうか、あっさり陸兄さんは答えてくれた。
「じいちゃんの往診に来てくださるんだ」