「人に化けるのも悪くないけど、上手く化けきれないでひんしゅくを買うのもいけないし。ここに来る鳥たちに頼んで、ちょっとの間姿を貸してもらった。…でも情けないことに怪我をして。それで君に助けられた」


近くで見ているだけでよかったのに。思いは積もるばかりでいけなかった。とサチはこぼす。



「見るだけじゃなく、直接お礼が言いたくなった。話がしたくなった。ぼくは妖力を使って、ひとの姿に化けたんだ。でも、結局また君に助けられてばっかりだったね。だから、せめてものお礼として…微力ながら君達の家へ福を招来してみたよ」


やっぱり。サチの力だった。



「それが、ぼくの役目だからね」


どうして忘れていたんだろう。


じいちゃんに聞いたことがある。


今から数百年も前の話。それはそれはひどい嵐に見舞われた年があって、なぎ倒された神社の木々のなかに一本だけ生き残りがあったそうな。


多くの福を招来するその木は御神体として祀られて、また多くの参拝者を招き入れた。しかしながらついえてしまった家は市の計らいでこの町のどこかに植えられた。




それが、この木なんだ。




「ありがとう、ありがとう」


透けた手は、おれの手に触れることはない。でもわかるよ。サチはここにいる。