それから俺は毎日サチと木で待ち合わせて、他愛もない話を交わすようになった。


彼女はなぜか、自分のことについて一切語ってくれなかった。どこの学校に行っているとか、家族は何人とか。


でも、きっと複雑な事情を抱えているんだろう。不躾に聞くのもよくない。そう思って特に触れずにいた。



「カイトはいいなぁ。優しい家族に恵まれていて」


サチはうっとりと呟いた。どこか寂しげな声色にどきりとして、おれは咄嗟に言ってしまった。


「うちに来る?」


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「おじゃまします」


澄んだ笑顔で、サチは母ちゃんと姉ちゃんに挨拶した。


「あの、ごめんなさい。夕飯時に…」

「あら、気にしなくていいのよ。冷やし中華でいいかしら」

「はいっ!」


黄色い麺の上に、きゅうり、錦糸玉子(きんしたまご)とハム、それからトマト。夏らしさ満天のそれをサチは口いっぱいに頬張った。