彼女の手に握られたスケッチブック。コピーでいいから欲しい、と頼み込んだ桔梗に千歳さんの御遺族は快く引き渡してくれた。生前仲良くしてくれたお礼に、と原本を。
「この町に…ずっといてはくれないの?」
口をついて出たのは本心だった。幾重にも重なる出会いと別れ。
「そんな顔しないでくれ。……私は寂しくてならない。きっとここへ来るたびあいつのことを思い出して、切なくて敵わないんだ」
「…そっか」
「思えば、望んだのは私だったはずなのに、人になってからは厄介なことばかりだった。花だった頃は知らなかった想い…」
食べ物。匂い。体温。音。人の優しさ。水の色。日のぬくもり。誰かの笑顔。
「すべてに触れられてよかった。全部が愛しい。─だからもう、平気」
「桔梗…」
「私はあと何年生きられるかわからないけれど…足掻いてみる。彼と共に」