静かな時間。彼は思い出したように、おもむろに何かを取り出した。


「それは?」

「スケッチブック。絵を描くものなんだ」


ばらっと捲られた紙の束にはいろいろな絵が描かれていた。どうやら彼は繊細で淡い色ばかり好んで使うようで、まるで彼の心を現しているようだ。


「書いてもいい?」

「構わないが…」



興味深かった私はじっと彼の手元を見ていることにした。彼はすっと私に向き直り笑った。


「下を向いたら顔が見えないよ。もうちょっと上見て」


「わ、私を描くのか!?」


冗談じゃない、と抗議するものの適当に言いくるめられて逆らえない。



「モデルが綺麗だと捗るよ」


「う、るさい。筆を動かせ筆を」



長い時間じっとしていた。できた、と得意げな顔の彼。完成した絵の中、彼の瞳に映る私がそこに居た。どこからどう見ても人のなりをした私にどうしようもなく心が痛む。