「その通りよ。あの泉の水は、私の残りの命を表しているの…」
「っ」
「悠長にしていられないということだ」
つまり泉が枯れたら何もかも手遅れってことだ。
「じゃあ今すぐ…!」
「それが…聞いて、杏子」
彼女は真っ直ぐに私を見ていた。
「私に呪いをかけた男はもう死んでしまったの」
「な…」
「呪いの文言は、基本的にかけた当人しか知らない。施呪(せじゅ)も解呪(かいじゅ)も同じ人間がやるのがふつうだ」
師匠の言葉に、唇を強く噛んだ。勝手に呪っておいて、あとは放っておくなんて。そもそも何が目的でこんなひどいこと。ただ人のために歌って、舞っていただけなのに。
それのなにがいけない。人のための行いなのに、なぜ。やるせない思いが頭を埋めた。
「呪いは解かなくていい。だから、痛みを忘れる暗示でもかけて欲しいの。そうすれば、最後にもう一度だけ…」