「翡翠様は今年は、歌えそうにないと。気を病まれてしまいまして」


「歌を歌うの?」


「はい。春の晴れた夜明けに、翡翠様は泉のほとりで歌を歌いになられます。雨乞いの詩に御座います。詩に合わせ我々はお傍で舞を舞い、作物がよく育つよう、祈りをささげるのです」



「人のため、善意から行っていることだが、その人に呪いをかけられるなど不毛な話だな」


その通りだった。あまりにひどい話だ。なんで呪いなんか…



「そこで霊力が強いと噂の杏子様に、どうか翡翠様の呪いを解いて欲しいのです」



もう一度、波のように彼女らはひれ伏した。お願いします、とあちこちから声が上がる。圧倒されて、私は了承の返事をした。



目の前で困っている妖を放っておけるほど、冷徹になれなかった。