怒りも忘れてしまうほど、時がたった。あの時の業火で多くの命が死んだようだった。娘は売られたことに絶望し川へ身を投げたようだった。結局助けることはできなかった。
「私は神などではない。ひとつの命も助けられぬ役立たずの妖だ。すまない、翁─」
嘘をつき続けた罰だと思った。気が付くと私は鬼になっていた。衆への怒りは忘れても、一度穢れた魂は救われぬ。
こんな私など・・・居ないほうがいいのだ。
私は池を訪れる人を手当たり次第襲った。やがて「鬼の住む池」という噂が流れだし、誰も近づかなくなった。
『寂しい…寂しい』
恨めしい。
─こんなに醜くなるつもりはなかった。
『祓ってくれ』
楽になりたかった。
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意識が戻る。この妖の過去を、見ていたの?