飲まれる、と思ったときにはもう遅かった。私の意識は暗い水底へ沈んだ。




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私は名も持たぬしがない位の低い妖。宿を探すうち、静かな蓮池を気に入り棲みつくようになった。


花どもを世話し、鳥と語らい、静かで退屈な日々。


「静かだ」



静かなのは好きだったが、あまりの退屈さに飽き飽きしていたころ。現れたのが1人の老人だった。変わり者だった。池に立つ私を見ると神か何かだと勘違いして、それは丁重に崇めたのだ。「ありがたい、ありがたい」と。



「だから私は神じゃないと言っておるだろう」


「おお、口を利いた…人懐こい神様じゃあ」


「このぼけ老人め…」



翁は毎日やって来た。要らないと断っても、毎回供物を差し出した。あまりに健気に通い詰めるものだから、私も情が湧いてしまった。…まあ、暇つぶしにはなるか。


毎日毎日、飽きもせず他愛もない話をしていた。